現象の中に潜む理由を探る
自然科学の題材は実際にこの世の中に存在しているものであり、その目的は自然を理解することにあります。そして、われわれ研究者は、自由な発想で、新しいものの捉え方や概念の啓発をしていかなければなりません。
私の専門は「統計力学」という分野に含まれます。互いに関係しあったミクロな要素がたくさん集まったときの、マクロな性質を説明するための一般的方法論を研究しています。その一例として磁性体のメカニズムを探るために、そのひとつの簡単なモデルの解析的研究を手掛けています。一つひとつがミクロな磁石である電子が揃えば磁石になる。これを数理モデルにし、様々な数学的な性質を利用して解析するのが私のやり方です。このモデルは、相転移とよばれる現象を引き起こします。スピンという要素が互いに同じ方向を向こうとする作用と、デタラメな方向を向こうとする作用が競合したときに、ある秩序ができる過程を調べることに相当します。モデルの有効性は磁性体だけにとどまらず、脳神経系の情報処理や社会におけるネットワーク形成過程など、一見、まったく違って見える多くの分野へも応用発展しています。このように単純なモデルを通して多くの対象に共通な性質が見えてくる、それが私の研究分野の魅力です。
また、構成要素のどれかが必ず不満に陥るような体系は「フラストレーション」があるといいます。私はこのフラストレーションが秩序に及ぼす影響というものに特に関心を持っています。フラストレーションがない状態はどれもが満たされて存在し、そこに見られる秩序は一種硬直化したものであって、外の環境変化に対して柔軟ではありません。実は、フラストレーションこそが系をよりよい状態に動かしていくための駆動力となり、環境変化に対する柔軟性を与えるのではないかということが言えるわけです。磁性においても社会においても、その面白さに私は魅かれているのかもしれません。
向き合う姿勢を大切に
近頃では課題に対して、すぐにインターネット検索をかけることで答えを引用する傾向が学生たちに見受けられます。しかしながら、自然科学という学問はまだ誰も解明していない、正解の与えられていない対象に対して、自分の知っていることをもとに試行錯誤しながら進歩していくものです。自分の頭を使って考えることの重要性を学んで欲しいですね。答えは安直に求めるのではなく、時間をかけて辛抱強く問題とじっくり向き合う態度も必要だと思います。
※知久 哲彦先生は〈理学部・総合理学プログラム〉にも掲載しております。
中学3年生の時から現在まで、約30年間にラジオのエアーチェックで取りためた曲数は3万曲に及び、それらはすべてリストファイルに書き留めている。ラジオは初代のもので、今も現役
『THE TWO-DIMENSIONAL ISING MODEL』は修士論文を書く際にとても役立った本。『EXACTLY SOLVED MODELS IN STATISTICAL MECHANICS』も論文を書くのに用いた一冊で、厳密解のことが記されている