生命科学の研究分野はまだ誰も解き明かしていない新発見ばかり
モデル植物であるシロイヌナズナを用いて、「茎の形態形成の仕組み」について研究しています。シロイヌナズナはさまざまな面で植物科学の研究に適していることからこの分野で最も一般的に用いられているアブラナ科の植物です。しかし、葉や花、根に関してはよく研究が進んでいますが、茎はあまり調べられていません。現在、私が研究対象としているのは、なんらかの理由で茎に亀裂が生じてしまったシロイヌナズナです。どうして亀裂が生じるのか、どうすれば亀裂の発生を抑えられるのかということを実験で明らかにしようとしています。
実のところ、子どもの頃から植物にすごく興味があった、というわけではないんです。大学時代に、植物科学を教えている先生の話が面白くて興味本位でこの分野に飛び込み、みるみるうちにあらゆる生命現象の仕組みに関心を向けるようになりました。シロイヌナズナの茎を研究対象としたのは「他の人と被らなかったから」という成り行きの部分もありましたが、実際に研究を進めてみると不思議なことだらけで、すっかり楽しんでいます。茎がどんどん成長する姿は私たちにとっては当たり前の光景ですが、その仕組みはとても複雑。いったん気になり出すと多方面に謎が増えていきます。生命科学の分野では、たとえ学生と言っても自分の研究テーマを持ち3か月も研究に真摯に取り組めば、その研究に関しては世界の誰よりも詳しい一人前の研究者です。それほど研究テーマが細分化されているということです。まだ世界で誰も解き明かしていない生命現象の謎が、自分の研究によって明らかになる可能性があるというのはとてもやりがいがあります。
実験で大事なのは、目的を明確にすること
授業では、「生物科学実験I」、「生物科学実験II」、「特別実習(森林実習)」を担当しています。実験Iでは、分子生物学実験の基本操作を身につけると共に、動物や植物の形態観察を通じて生物の生命活動がどんな組織・器官によって支えられているのかを学びます。実験IIでは、さらに最先端の研究にも用いられている実験技術を用いた実験にも取り組みます。
授業で特に大事にしているのは、授業前にきっちり予習をしてきてもらうこと。実験をする際には、目的を明確にすることがとても重要なのです。なぜこの実験に取り組むのか、何に気をつけて取り組む必要があるのか、どういった技術が足りないのか。目的を持って実験に取り組むことは、卒業研究の練習にもなります。実験操作は何度も挑戦して慣れてしまえば修得できるものですが、こうしたマインドの部分も疎かにしてほしくはないのです。
授業中は疑問に思ったことはそのままにせず、まずは自分で調べたり、友だちや私たち教員に聞いたりして、問題や疑問を解決する能力を実践的に身につけてほしいです。
乗り気でない分野から思わぬ出会いが生まれる
学部のカリキュラムのすべての授業に興味がある学生というのはほとんどいないかもしれません。しかし大学卒業後は、能動的に動かないかぎり、自分の関心領域以外からの学びの機会はなくなります。そのため単位のためにあまり乗り気でない講義を受けることも実は人生において貴重な機会で、思わぬ出会いというのもそういったところに潜んでいます。大学では専門性を深めるだけでなく、広げることも大切です。そういう私自身はもっとしっかりいろいろと学べばよかったと学生時代を振り返ってよく考えるので、学生のみなさんにはぜひ広い視野で学んでほしいと思います。
国内や海外に出かけた際に買ったり、友人にお土産で買ってきてもらったりしていたコースターです。もったいなくて使えないのと、使いきれないほどたくさんになったので今はもう集めていませんが、その時々の思い出や街の文化が感じられて面白いです
私の愛読書である『愛なき世界』は、植物科学に興味がある人は必読、そうでない人にもぜひ読んでほしい小説です。以前、著者の三浦しをんさんがとある研究会に取材にいらしていて、そのこと自体は事前に知らなかったのですが、ちょうどその会場までの移動中に当人の本を読んでいたので本当にびっくりしました。そこでサインをいただきました。その後、またお会いできたときに今度は折り畳み傘にもサインをいただきました(優しい)。研究者には自身の研究を発表する能力が重要ですので、分野は違いますが、表現が上手な作家の先生には常に尊敬の念を抱いています