メキシコの古代文明に圧倒される
大学でラテンアメリカの音楽サークルに入っていて、3年生の時に仲間たちとペルーとボリビアへ行くことにしました。直行便がなかったため、メキシコで数日観光をして過ごすことになったのですが、これが私の転機になりました。何も知らずに見に行った場所がどれもこれも本当に強烈だったのです。まず向かったテオティワカン遺跡には、エジプトよりも巨大なピラミッドが2つもありました。ここまで大きなピラミッドをつくるのは相当大変だったはずです。広大な遺跡を歩きながら、「一体彼らは何のためにこんなものを作ったのだろう…」と呆然としました。
次いで向かったメキシコ国立人類学博物館には、さまざまな神の像や、儀式に使われた道具などが展示されていました。アステカ文明には「生贄」の文化があります。「神に心臓を捧げる」という行為は、現代人にはきわめて理解しがたい、恐るべきものです。しかし、なぜだか彼らの文化から目が離せなくなっていました。アステカという自分とはあまりにかけ離れた世界を、もっと知りたい、理解したい…そう思うようになったのです。もともと大学で宗教学を専攻していたこともあり、それ以来、私はアステカ王国の儀礼や神話などをもっぱら研究するようになりました。
全く異質な文化を知ることで、人はより豊かに、より自由になれる
まずはラテンアメリカの文化を身近なものに感じてほしいので、授業ではみなさんに馴染みのある文化的現象を取り上げるようにしています。サンバのリズムが鳴り響くリオのカーニバルや、『コンドルは飛んでいく』などで知られるアンデス地方の音楽などは、日本でも比較的よく知られています。ラテンアメリカの人々の祝祭や音楽は生命力に満ちあふれていて、それを見たり聴いたりする者の魂を活性化させてくれます。
私自身がメキシコで実感したことですが、世界は自分が思っているよりもはるかに広大です。ラテンアメリカのことを知っていくと、きっと「こんな世界もあるのか!」「こんな生き方をしている人がいるのか!」とカルチャーショックを受けることでしょう。多様な価値観に触れると、受け入れられるものが増え、考え方が柔軟になっていきます。それと同時に、人間にとって本当に大切なものと、さほど大切でないものとが、少しずつ見分けられるようなっていくはずです。
民族によって、地域によって、国によって、そして個人によって、人は多様なあり方をしています。そうであるにも関わらず、人間はどこか大事なところで共通しています。その共通した部分こそが、人間というものを理解するためのカギになるところです。人間は、ダイナミックで、クレージーで、ファンタスティックな存在です。授業やゼミで、みなさんと一緒に、人間と世界についての理解を深めていければいいなと思います。
泣くような思いで本を読んだ大学時代
大学1年生のとき、読書家の友人に影響されて、自分ももっと本を読もうという気になりました。「乱読は多読の一種」という言葉を知り、どんなジャンルも片っ端から読むようにしました。しかし、難しい本となるとなかなか内容が頭に入ってきません。哲学や宗教学の古典を、泣くような思いで――読むのが辛くてほとんどベソをかきながら――読んだ記憶もあります。分厚くて難解な本を必死に読んで、結局、何も理解できなかったという体験。それでも、とにかく読み続けることで、少しずつ前進していったような気がします。学生のみなさんには、大学の四年間に、多くの本を読み、たくさん文を書き、大いに人と対話(議論)することを、お勧めします。そうやって「言葉の総合力」を高めることで、みなさんの卒業後の人生は確実に豊かなものになるはずです。
『アステカ王国の生贄の祭祀 血・花・笑・戦』(岩崎賢/刀水書房)。初めての単著です。内容の良し悪しはともかく、その時点での自分というものをできる限り表現できたと思います
軽自動車に乗って、奥さんとあちこちに遠出しています。この時は、砂浜を車で走ることができる石川県の「千里浜なぎさドライブウェイ」へ行きました