外国語学部 英語英文学科
鈴木 宏枝 教授
Suzuki Hiroe

研究分野 英語圏児童文学

出身地/東京都

外国語学部 英語英文学科 鈴木 宏枝 教授

児童文学を通して、複層的な社会を感じとる。
小さな声に耳を傾けて。

作品に込められた子どもへの祈りに触れる

英語圏の児童文学を研究しています。大学時代は子どもや家族問題に興味があって臨床心理学を学び、その一方で「児童文化研究会」というサークルに所属し、児童文学を読んだり、夏休みに関東各地の小学校で人形劇や影絵劇の公演活動をしたりしていました。研究の道を目指して進学するとき、自分の好きな子どもの本を専門的に学べる白百合女子大学の大学院を選び、ありがたいことに日本の児童文学研究の歴史を作ってこられた先生方に恵まれました。修士時代は英米系に限らず宮沢賢治や荻原規子などの日本の作家や絵本も含め幅広く読みましたが、もともと翻訳作品に親しんでおり、英語も得意だったため、早い時期に自然に英米系に舵を切り、この分野の第一人者である神宮輝夫先生にご指導いただきました。

修士論文はアフリカン・アメリカンやネイティブ・アメリカンの血を引くヴァージニア・ハミルトンという作家について、博士論文はハミルトンを含めたアフリカン・アメリカン児童文学について書きました。まとめるにあたっては、子どもの本にはその時代を生きる大人たちから子どもたちに向けた願いや祈りが込められていると感じられたことが大きな実りでした。一般の文学で奴隷制度や人種差別を描く際には、どうしても辛く残酷な描写が用いられますが、児童文学は告発よりもむしろ、奴隷制時代のレジスタンス活動である「地下鉄道」の勇気、理不尽な差別を乗り越える力をメッセージの軸にします。それはやはり、大人から子どもへの願いですよね。子どもを健やかに生きさせよう、希望を持たせようという覚悟がなくては書けない文学ではないかと思います。子どもは社会の中で守られるべき存在なのに、しばしば家庭や社会のひずみの影響を受けますが、こうした願いや祈りに触れることが、大人や社会を信じることにつながればと思います。

作品は作家の書いたものですが、ロラン・バルトの言うように、世に出たときから作家個人を超えたテキスト(織物)となって読者による多様な読みが始まります。私もその一人として、織り糸や模様を読み解くべくさまざまな角度から考察を重ねてきました。

最近は、共同体の中で「声」を持てない人やアウトサイダーの描き方という点に関連して、ファンタジー作品も分析しています。批評理論を使って『床下の小人たち』の小人の小ささの意味を考えたり、『ハリー・ポッター』シリーズをヴォルデモートの側から読んだりすると、なかなか面白いものが見えてきます。今後は、「児童文学とは何か」というさらに広い問いにも取り組んでいきたいです。

本を読むことで身に付く対話力と、背景を読み取るスキル

授業では、作品の分析のほか社会や文化との関係にもフォーカスします。児童文学の語彙や表現は平易ですが、だからこそストーリーがどのように組み立てられ、どんなメッセージがひそみ、どんな声が聞こえてくるかをていねいに分析することが重要です。思いもよらない深いテーマに気づいたり、何気なく読むだけでは見えない背景が感じられたりすると、面白さがぐっと増すでしょう。表面的に読み取れるものの向こう側にある社会の力学に触れること。学生の皆さんには、文学に限らず、テキストをどう読むか、絵をどう読むか、情報の深さを自分で読み取れる力を養ってもらいたいです。

本は、自分で読まなければ先に進みません。ここにいない作家や登場人物とのコミュニケーションが読書です。コミュニケーションと聞くと、上手に話すことや効果的な言葉を使うことを思い浮かべる学生も多いかもしれませんが、基本はまず相手の話を聞くこと。相手が述べていることを受けとめた後で、自分の考えを組み立てて表現していくことが対話です。空想の相手と対話する力を、生身の人とのリアルなコミュニケーションにも役に立ててもらえればと願っています。

マグネット
旅行先ではあまり大きなものや高価なものはお土産にせず、記念にマグネットを買うようにしています。自宅で実用的に使えて、見るだけで行った場所が思い出されます

庭
数年前から庭に手を入れるようになりました。土を良くし、相手をよく観察し、手をかけながら見守るというのは教育にも通じるように思います。多少放置しても毎年きれいに花を咲かせたり、肥料や消毒などで手がかかったり、植物によっていろいろですが、どの花も草もかわいいです