積み上げた知識と経験がひらめきを形にする
私たちの暮らしに欠かせない多くの電気製品には、半導体デバイスという部品が使われています。そして、スマートフォンをはじめ電気製品の多くがより小さく、より軽く改良されていくなかで、その構成部品である半導体デバイスも、性能を上げながら小型化・軽量化することが求められるようになりました。この半導体デバイスは、「インゴット」と呼ばれる円柱状の半導体材料を切り出し,削り、磨き上げることでできる「ウエハ」に電気回路を形成して作られています。私はその工程で、ウエハにダメージを与えることなく、より薄く、より平坦に、より小さくするための研削加工の研究を行っています。
砥石で材料を研削したり、研磨したりする加工は古くから行われていますが、そのメカニズムについては、ブラックボックスと言われるほど解明が進んでいません。砥石は「砥粒」と呼ばれる小さなカッターのようなものを結合剤でつないでできているのですが、「砥石が材料の上を走るとき、いったいどの砥粒が実際に材料を削っているのか?」といった詳細がほとんど分かっておらず、多くの研究者がその解明に尽力されています。そこで私は砥石と材料の間で新たな比を定義し加工評価を行うことで研削の仕組みを明らかにし、ブラックボックスをこじ開けようとしています。この理論がひらめいたときは、あまりの嬉しさに恩師の部屋に飛び込んでしまったほどでした。最終的には、このブラックボックスを完全に解明することが今の夢です。
研究は簡単に結果が出るものではないですし、苦しい時期もありますが、その長く暗い道をひらめきが照らしてくれることがあります。そして、この一瞬のひらめきを形にするためには、知識や経験を積み上げておかなければなりません。どうしても形にすることが難しい場合でも、知識と経験を活かせば、別のやり方に方向転換することもできるのです。
卒業研究で探求することの面白さや楽しさに開眼
高校生の頃は、まだ専門的に学びたいことや将来の道が見つからず、夢を実現するために進学先を選んでいる同級生をうらやましく思いながら、半ば就職するような気持ちで防衛大学校に進みました。2年次には、先輩から勧められた「機械システム工学科」を選択しましたが、試験前に一夜漬けでなんとか単位を取得するような大学生活でした。転機となったのは、4年次に取り組んだ卒業研究です。テーマは、「リニアモータ駆動水静圧案内テーブルの動特性」。試行錯誤しながら課題を解決するうちに、自分で考えることの面白さや、考えた末に新しい何かを見つけられたときの楽しさを知り、将来は研究を仕事にしたいと思うようになり、大学院に進んで博士号を取得しました
高校時代は特別にやりたいこともなかった私が、興味の対象を見つけて現在の道に進むことができたのは、大学や大学院時代に素晴らしい指導者のもとで学ぶことができたからだと思っています。恩師のように、すでに夢を持っている学生にはより高いレベルで実現できるよう、まだ夢を見つけられずにいる学生には夢が見つかるよう、その手伝いができたらと思っています。
半導体デバイスの材料になる直径450oのSiウエハ。このサイズは市場にはほとんど出回りません。最初は円柱状のものですが、円環状の砥石で薄く削り、研磨することでこのような状態になります。現在は直径300oのものが主流です
素晴らしい方々と共に小隊長時代を過ごした北海道の戦車連隊から転出する際に頂いたメダル。陸上自衛隊で勤務していたからこそ、今の自分があると思っています