工学部 数学教室
伊藤 秀一 教授
Ito Hidekazu

研究分野 力学系理論、数理解析学

出身地/東京
子供の頃の夢/喜劇役者、科学者
趣味/クラシック音楽鑑賞(特にピアノ曲)
好きな食べ物/パスタ、お豆腐

工学部 数学教室 伊藤 秀一 教授

大学での勉強は、じっくり時間をかけて。
公式の真の意味を知り、考えを深めていく訓練を。

太陽系の過去と未来を、数学的な観点から探りたい

数学の中でも「力学系」と呼ばれる分野を研究しています。17世紀後半に生まれた微分積分のおかげで、自然現象を数学的に考察できるようになりました。たとえば近い将来の天体の動きを予測できるようにもなりました。力学系という分野は、そのような天体の動きを数学的に追求しようとする中から、19世紀の終わりに誕生しました。

天体の動きは万有引力の法則に支配されていて、もし太陽のまわりを動く天体が一つの惑星だけなら、その動きは太陽を焦点とする楕円軌道を描く周期的運動として完全に理解できます。しかし、実際に太陽をまわる天体はほかにもあるわけで、そこからの引力があることを考慮すると、その動きをきちんと理解することはそう単純ではありません。他の天体の引力の影響は太陽のものよりずっと小さいのですが、何千年、何万年という時間がたてば「塵も積もれば山となる」かもしれません。ですから、時間がずっと経過すると、あるいはずっと遡ると、天体での動きが今と同じという保証は何もないのです。そのような一見予測不可能な問題を、数学を使って探ろうとするところに研究の醍醐味があります。

問題を解くのではなく、問題の意味を考えるのが大学の意義

1年生向けの「微分積分学」と「幾何学(線形代数学)」を担当しています。この2つは、どの大学でも理工系学部の1年生が必ず学ぶもので、理工系のさまざまな分野を学ぶにあたって大切な土台になります。理解を深めるためには、自分の手を動かして計算することが何より大事です。自分の手を使って計算し、そして自分の頭を使って考えることは、研究者のみならず社会人となるための大切な訓練です。その訓練の手助けをしたいと思います。

高校までの勉強の経験から、数学とは「いかにたくさん公式や解法を覚えて、問題を解くか」だと思っている人が多いのではないでしょうか。しかし、大学での勉強や研究は違います。「公式を当てはめる」ことができるのは、「この問題には答えがある」と分かっている場合だけです。研究とは、答えがあるかどうか分からない未知の問題に挑戦することで、問題の設定を自分で行う必要があります。「なぜこの問いを立てたのか」と自問自答することは、研究者に限らず、どんな仕事にも求められることです。なぜなら、きちんと本質を捉えていなければ、問題を発見することができないからです。ですから、数学に限らず大学での学びでは、ただ答えを求めるだけでなく、「なぜこのように定義するのか」「どんな仮定をしてどう結論を導くのか」と、根本に立ち帰って考えるように意識し、本質を捉える練習をしてほしいと願っています。

時間と経験を大切に。人との違いから自分を知る

新型コロナウイルスの影響で、皆さんが楽しみにしていた大学での友人との交流やサークル、バイトなどにも制約があると思います。本当に残念なことですが、その分、本を読んだり物事を深く考えたりして、一人の時間を有意義に過ごしてください。そして、いよいよ友人たちと会うことができたら、その時を大切にしてください。

やりたいこと、自分に向いていることを見つけるには、とにかく何でも経験してみるのが一番です。「こんなものでいいか」と手を抜かず、何事も一生懸命、真面目に取り組むことで新たな発見があると思います。好きなことを自問自答して、それを友人と話し合って、照らし合わせてみましょう。優劣をつけるのではなく、単純に人との違いを見つけるのです。「自分はこれが得意なのかもしれない」という気づきの中に、あなたの将来やりたいことが隠れているかもしれません。

数学書と卓球のラケット
数学書と卓球のラケットです。『Lectures on Celestial Mechanics』(C.L.Siegel、J.K.Moser/Springer)は、大学4年生から修士1年にかけてのゼミのテキストでした。表題は「天体力学講義」ですが数学書です。通常の数学書は、「定義」「定理」「証明」という順で書かれることが多いのですが、この本はまったく違って、定義や定理は文章の中でさりげなく述べられています。それでいてとても完成度が高く、私の研究の出発点になりました。
もう一つは卓球のラケットです。中学時代に卓球部に入っていて、大学院生や助手(助教)の時代は仲間とよく卓球をしました。これは院生の頃に買ったもので、今ではまったく見なくなった「ペンホルダー」という形のラケットです。チューリッヒの大学に客員研究員として滞在していた時にも持参し、友だちづくりに役立ちました