経営学部 国際経営学科
広嶋 進 教授
Hiroshima Susumu

研究分野 井原西鶴、日本文学

出身地/宮城県仙台市
趣味/神保町古書店めぐり、昭和モダン建築探訪
子供の頃の夢/漫画家になること
尊敬する人/手塚治虫、黒澤明、恩師
愛読書/鹿島茂、内田樹のエッセイ
休日の過ごし方/街を散策
好きな映画/黒澤明「蜘蛛巣城」、宮藤官九郎「タイガー&ドラゴン」
好きな音楽/バッハ「平均律クラヴィーア曲集」、ビートルズ「ラバー・ソウル」
好きなTV番組/「出没!アド街ック天国」(テレビ東京・土曜)
好きな著名人/古今亭志ん生
好きな食べ物/ざるそばと草加せんべい
好きな国/陸奥国
好きな画家/マチス、デユフイ、池田満寿夫、藪野健

経営学部 国際経営学科 広嶋 進 教授

これからはグローバリズムではなく、
ローカリズムの時代がやってきます。

グローバリズムからローカリズムへ

数年前から英語検定を受検する人よりも、漢字検定を受検する人の数が多いという現象が見られるようになりました(英検230万人、漢検290万人/08年度)。また最近、書道がブームとなりつつあり、方言や地方独特の風習・食生活に関する出版物やTV番組も増えてきました。

なぜ、このような現象が起こってきたのでしょうか?それは、パソコンや共通語や東京スタイルの生活様式が全国に広く普及し、これらのことがあまりにも当たり前になってしまったために、かえって、古いもの、日本固有のもの、周辺的なものに対して、新鮮な関心が寄せられるようになったためと考えられます。そして、この傾向は今後ますます強くなっていくだろうと、私は見ています。

学生が留学先で英会話はできたものの、「あなたの国のことを話して」と言われて何を話せばいいか困ってしまった、というエピソードをよく耳にします。英語が流暢に話せるようになったら、次に必要性を感じるのは「何を話すか」ということ。簡単に例えるならば、そういうことです。経済や世界全体のグローバル化に呼応するように、文化的な指向はグローバリズムからローカリズムへと転化して行く。それは、これまでの日本文化の歴史がたどってきた、普遍から特殊へと回帰するパターンの一例でもあります。

内向きの心と日本文学

私の講義の「日本文学史」の授業では、日本の文学の流れの上で、大きな達成を遂げた作品群として、次の三つを挙げます。平安朝の女流文学、江戸時代の町民文学、日露戦争後の明治文学――それらの時期を代表する作家は、紫式部、井原西鶴、夏目漱石です。

これらの円熟期は、順に、中国文化摂取の終了期、内乱の終結と鎖国体制の完成期、ロシア軍に対する戦勝と国家目標の喪失の時期であり、海外ではなく国内の文化へと人々の関心が向かった時期に重なっています。そして、いずれの時期においても、その前段階において中国化や欧風化(すなわち国際化)が積極的に進められたという共通性があります。

言わば、国全体が中国文化や西洋文化の持つ普遍主義をある程度まで吸収し達成し終わったのち、その自信を基盤として、今度は逆にそこから離れて、日本というローカルな文化・文学の成熟へと向かった時代に当たります。

幸か不幸か、日本の文化や文学はこれまで、人々の心的傾向が、外向きではなく内向きになった時に優れた成熟を見せているのです(この点で、外側へ向かって拡大路線を採った時に文化の爛熟を迎えてきた、欧米文化との相違があります)。

このように、今日の問題や文明史的な視点と関連付けながら、過去の日本文学の遺産を具体的にたどっていくのが、私の「日本文学史」の講義です。

受講者には具体的な作品を毎週一作品ずつ、文庫本等で読んでもらい、あらすじと批評を提出してもらいます。宿題の多いハードな講義ですが、「読み、かつ書く」わけですから、文章力は向上して行く(はずです)。

太宰治と井原西鶴の文学

私の専門は井原西鶴(1642〜93年)の作品研究です。今年(2009年)は太宰治の生誕百年ということで、太宰作品による映画が封切られたり、たくさんの出版物が刊行されています。そしてその太宰自身は大変な西鶴びいきでした。太宰はこう書いています。

「西鶴は、世界で一ばん偉い作家である。メリメ、モオパッサンの諸秀才も遠く及ばぬ」(『新釈諸国噺』凡例、昭和20年1月)

太宰の『人間失格』は新潮文庫の売上累計615万部で、この文庫における売り上げの第1位です(太宰作品17点は累計2,040万部だそうです)。太宰がこれほど賞賛しているのですから、太宰ファンの方々はぜひ西鶴作品も読んでもらいたいですね。

「西鶴作品は難しい。何から読み始めたらいいですか」と、よく質問されます。

私は読みやすさという点から、『西鶴諸国ばなし』をお薦めしています。また文学的な達成という点からは、『世間胸算用』『万の文反古(よろずのふみほうぐ)』『西鶴置土産』を推薦しています。この後者の町人物3作は次のような作品です。

『世間胸算用』は、集金日である大晦日の前後を舞台として、大商人から貧者まで、商行為のおかしみと悲しみを網羅的に捉えた作品です。『万の文反古』は、窮地に立たされた遊女・僧侶・武士・商人たちの手紙を集め、不況下における失敗と行き詰まりをモチーフとした書簡体作品です。『西鶴置土産』は、遊郭遊びで落ちぶれた金持ちたちが、虚栄と外聞に生きる滑稽と哀れを描いた作品です。

経済学も経営学も人間が合理的な「等価交換」をするということを前提として、その学問が成立しています。そのこと自体は当然のことなのですが、しかし、人間は時に「等価交換」を無視して、あるいは逸脱して、行動することがあります。井原西鶴の作品群には、そのような人間の無駄で「欲」にかられた行為、「業」、あるいは「虚勢」や「見栄」による行動――すなわち人間の営みそのものが描かれています。また同時に、作者の人間に対する冷静でしかも温かい視線を感じ取ることができる、“大人の文学”と言えるでしょう。

経営学部の学生たちにこそ、ぜひ読んでもらいたい作品です。

著書の『西鶴探究―町人物の世界』(ぺりかん社)
著書の『西鶴探究―町人物の世界』(ぺりかん社)。『日本永代蔵』『世間胸算用』など西鶴の町人物5作品に焦点を当てた作品論で、学位論文を2冊に分けて刊行したものの第一弾。装丁は、憧れていた装丁家の間村俊一氏にお願いした

前著作の続編となる『西鶴新解―色恋と武道の世界』
『好色一代男』『好色一代女』など、西鶴浮世草子を読み解いた、前著作の続編となる『西鶴新解―色恋と武道の世界』 。再び間村氏に装丁をお願いした。自分なりのイメージがあったため、酒井抱一の「紅白梅図屏風」を拡大コピーして文字の割り振りまでして「例えばこんなのはいかがでしょう」とサンプルを作ってみたのだが、はぐらかされ(笑)、完成したのがこちら