人間科学部 人間科学科
加藤 美智子 教授
Kato Michiko

研究分野 臨床心理学、青年期カウンセリング、イメージの心理学

生年/もう還暦を過ぎました
出身地/富山県
血液型/血液型は「私」を枠にはめられるので病院以外では言わないことにしています
家族構成/老老介護の3人暮らし
子供の頃の夢/音楽家か医者になること。(ここに私の深いルーツがあるように・・・)
尊敬する人/自分に他者に優しく生きている人
愛読書/絵本。村上春樹『使いみちのない風景』
趣味/今は、時々お花を活けること。昔は、ピアノを弾くことでした
休日の過ごし方/疲れを取り、疲れを取り、疲れを取ること
好きな映画/「天井桟敷の人々」を一人場末の映画館で見たことを今でも思い出します
好きな音楽/フジコ・ヘミングさんが日本に戻ってすぐに弾いた「ラ・カンパネラ」(リスト)
好きなTV番組/テニスの試合と「相棒」
好きな食べ物/果物
好きな国/日本しか知らない希少人種です

人間科学部 人間科学科 加藤 美智子 教授

青年は悩むのが当たり前。
大切なのはその悩みに向き合う姿勢です。

カウンセリングで大切なのは「話を聴く」こと

平成28年4月に本学に着任したばかりです。専門分野は臨床心理学なので、学部の科目では教職課程の「教育相談」、大学院では「臨床心理学基礎実習」「臨床心理学実習」を担当しています。とはいえ、ほとんどの時間は学生相談室で学生さんと個別にお話をしています。

学生さんからの相談ごとは学業や友人関係、家族のこと、将来のことなどいろいろですが、大抵なにかに行き詰まった感覚で来る人が多いので、いろいろ話をしながら、新しく一歩を踏み出せるような糸口を探していきます。

カウンセリングというのは基本的に「話を聴く」ことが重要です。その「聴く」の中身には、話の内容を「聞く」ということと、その内容の背景にどんな感情が秘められているかを感じ取りながら「聴く」こと、の両方が含まれます。そうして聴いたことをフィードバックしていく作業の繰り返しが「カウンセリング」なのです。たとえば、自分の気持ちが相手に届いたかもしれないというふうに感じれば、そこから少しずつでも自分の話ができるようになっていきます。自分を語れるようになると、問題が見えてきて、こうしてみようかなという自分なりの考えも浮かんでくるのです。その辺りまで一緒に話ができれば、後は大体一人でなんとかなります。そのように、学生さん一人ひとりが自分の人生を歩んでいけるように、何ができるかを考えています。

相手の心の中をイメージ化するのを「絵本」が助けてくれる

私自身は大学を卒業後、1年半会社勤めをし、無残にも女性の仕事に打ちのめされました。そこから無謀にも大学院をめざし、心理学の勉強を始めました。その頃が人生で一番勉強をしたかもしれません。それからは、心理学、中でも心理臨床にどっぷりつかっています。研究は嫌いではないのですが、私は実践家の要素が強いと思います。小さな実践的経験を積み上げてきて、最近、ようやく少し言語化ができるかもしれないと、期待しています。教員免許も自動車免許も持っていますが、自我関与はゼロ。臨床心理士としてのアイデンティティは持っています。

これまでの経験から、心の世界を理解しようとするときに、言葉だけではなくてイメージが大切だということを痛感してきました。人はすべての気持ちを言語化できるわけではありません。言いたいことを口にしても、言えば言うほど"なんだか違う"と感じたり、何を言いたいのかさえよくわからないこともあります。私は人の話を聴くとき、そこに一つのイメージを感じ取るようにしているのですが、これはなかなか難しいことです。そんなときに、そういえばあの作品の絵はこの人が話していることに近いかなあ、というように、「絵本」に相手の心のイメージ化を助けてもらいます。

相手の思いを共有しているかどうかを確認するのはとても大変なことです。絵と短い文章からなる絵本は、「ああ、この感じだよね!」という気持ちを共有しやすくしてくれます。もちろん、「この感じ」というのが本当はどういうことなのかを徐々に言語化していく必要はありますが、まず一緒にイメージを見られるというのはとても大きいのです。世の中には自分で描くことができる人もいますが、自分では描けない人でも、心のありようを絵本に投影できることもあるのです。そんな心の世界が表現されている絵本に出会うことが楽しみであり、そこに、どんな心の世界が描かれているのかを考えたり味わったりすることが、今では研究のテーマとなっています。

このような絵本の世界を教えてくれたのは、私と話をしに来てくれた学生さんたちでした。相手の心を感じ、その人の歩んでいる人生をほんの少し共にすることができる心理臨床の世界に、私は魅せられています。

自分の生き方をいとおしく思えると、人生が拓けていく

今は、スイッチ一つで膨大な情報が飛び込んできます。私の学生時代はそのようなツールはありませんでしたので、学生は岩波新書と岩波文庫とブルーバックス(理系の新書)を読破することが必要と言われ、競い合ったものです。読破した人は一人か二人でしょう。ほとんどの人は、とにかく乱読するなかで、自分が「読める本」のジャンルを明確にしていったように思います。そして読破できなかったことを残念に思いながら、自分には「読めない本」というものがあるのだと知りました。それでもいいのです。ただし最初からそこに触れずにいるのではなく、「本」という先達の知恵袋をのぞいてみて、自分の身体と心の反応を知ることが大切だと思っています。

「人生を歩む」というのは、とても大変なことです。いつもいつも順調に進むと思っている方が間違いです。悪いときも良いときもあると考え、時間的にも距離的にも自分の人生を俯瞰して見ることができると、大筋自分はこの方向で歩んできたのだなぁと分かるものです。若いときは目標をもって、バリバリとエネルギッシュに楽しく生きるのが良くて、そういう人に憧れ、そういう他者を称賛してしまいがちです。でも、自分の人生は他者と比較するものではないと私は思います。自分の生き方をいとおしく思えると、人生が拓けていくように思います。青年は悩むのが当たり前と言われたのはふた昔前かもしれませんが、学生の皆さんには青年期に悩みと向き合う姿勢を知ってほしいと思っています。

『やっぱりおおかみ』佐々木マキ、『おうじょさまとなかまたち』アローナ・フランケル
『やっぱりおおかみ』佐々木マキ(福音館書店)
『おうじょさまとなかまたち』アローナ・フランケル(鈴木出版)
カウンセリングに使うこともある絵本。孤独を描いた『やっぱりおおかみ』は初版1977年のロングセラー。イスラエル在住の作家が描く『おうじょさまとなかまたち』は、有名な『はらぺこあおむし』とは対照的ないもむしが出てくる強いメッセージ性を持った作品

『使いみちのない風景』村上春樹
村上春樹さんの『使いみちのない風景』写真:稲越功一(中公文庫)は、カウンセラーとして話を聞くときの支えにしている一冊。効率ばかりを求めていると、心の話はじっくり聞けない。疲れたときなどにパラパラとめくり、「そうだ使いみちばかり探しちゃいかん!」と自分を戒めている