人間科学部 人間科学科
前原 吾朗 准教授
Maehara Goro

研究分野 実験心理学、感覚知覚、弱視

生年/1975年
出身地/広島県
家族構成/妻と娘
趣味/スキューバダイビング、スキー
休日の過ごし方/娘と散歩
子供の頃の夢/電器屋
尊敬する人/マギル大学で研究員として働いていたときの上司 ロバート・ヘス教授
愛読書/『The Sandman』
好きな映画/「戦場のピアニスト」
好きな音楽/エマーソン・レイク・アンド・パーマー
好きな国/カナダ・ケベック州

人間科学部 人間科学科 前原吾朗 准教授

「五感への刺激→体の動き」を「入力→出力」
の計算と捉えて「心」の仕組みを解き明かす。

「心」を計算として捉えるのが「認知科学」

目の前のテーブルの上にカップが置かれているとします。皆さんは自然に「そこにカップがある」と認識して、それを手にしたり、飲み物をついだりすることができますね。けれど、そもそも私たちはどうしてそこにカップがあるとわかるのでしょう。もちろんカップが「目に映る」仕組みは物理的なものです。物にあたって反射した光が、眼球のレンズを通して目のなかに入り、目の奥にある網膜に像を結びます。さらに網膜には光があたると電気信号を出す細胞がびっしり詰まっていて、それがセンサーのような働きをして電気信号を脳に送るのです。そこまではいわばデジカメと同じような構造。ただしデジカメの場合はカップの写真を写していても、そこにカップがあると判断しているわけではありません。ところが人間の場合はそこから先に何かが起こって、そこにカップがあると認識できたり、そのカップをなんのために使うかということが判断できる。それは心の働きのひとつであり、その「心」の仕組みを解き明かそうという学問が「認知科学」です。

19世紀以来、心理学者は心について研究してきましたが、認知科学と呼ばれる研究領域が現れたのは1970年頃のこと。この比較的新しい研究領域の特徴は、心をある種の計算とする点にあります。感覚器(眼や耳など)への刺激を入力とし、それらを変換したうえで、何かしらの意味を見い出し、運動(手伸ばし、把持、障害物回避など)として出力するという計算です。こうした考えを共有することで、心理学だけでなく、生理学、コンピュータ科学、言語学、哲学など、異なる背景を持つ人々が心について相互に議論できるようになりました。私の担当している講義「感覚知覚心理学」では、感覚知覚研究の知見を通して、計算論に基づいた心の捉え方について学んでいきます。

テトリスを使って弱視を治す試み

心理学実験を通して人間や動物の知覚の仕組みを調べていくのが感覚知覚研究。そしてこうした研究は、たとえば以下のような状況に応用できます。

カナダで働いていたとき、私は弱視の研究に取り組んでいました。弱視というのは、幼児期に正常な視覚経験が得られなかったこと(斜視など)が原因で起こる発達的視覚障害です。たとえば斜視の人は両目が別々のものを見ているため、二つの像がうまく重ねあわせられず、結果、片方の眼(固視眼)だけを使うようになって、もう一方の眼(弱視眼)の視力が下がってしまう。他にも弱視の症状には視力低下、輝度コントラスト感度低下、空間知覚の歪みなどがありますが、そうした弱視の原因は眼球そのものの問題ではなく脳で行われる視覚情報処理にあるため、眼鏡やコンタクトなどで矯正することができないのです。そのため大人になってから手術で斜視を治したとしても、そのままでは弱視眼の視力はよくなりません。そこで私たちのチームは、弱視の患者さんにiPadを使ってテトリスをやってもらうという訓練を行っていました。もちろん普通のテトリスとは違い、3DSのようにシートを使って右目と左目とで見えるブロックが違うようになっているものです。あるブロックは左目で、あるブロックは右目でしか見えないため、同時に両目を使わないとゲームができないわけですね。弱視の原因のひとつに「眼間抑制の不均衡」があります。通常は脳内で行われる右目の処理と左目の処理は抑制しあってバランスが取れているのですが、弱視の場合は良い方の眼の処理が勝ってしまっています。このゲームはその不均衡を直すために効果があると考えられていて、実際に9人参加して少しでも視力がよくなったのは7人。さらに5人は立体視ができるようなりました。

自ら選択肢を狭めず、積極的に海外へ出て行こう

学生の皆さんには積極的に海外と関わっていってほしいと思います。それはすなわち「選択肢が広がる」ということですから。たとえば私は学生時代から『The Sandman』というアメコミが大好きなのですが、マンガ好きな人が、英語で書かれているという理由だけでアメリカやイギリスのマンガを敬遠してしまうのは大きな損だと思っています。もちろんマンガに限らず、映画でもゲームでも本でも、自分の好きな分野に関しては、単に言葉がわからないからという理由で自分から遠ざけるのではなく、海外のものにも積極的に手を出していった方がずっと楽しいはずです。外国語というのは基本的には慣れ。とにかく経験しないと上達しないので、話せるようになってから外国人と話そうと思っていてもそんな機会は絶対に訪れません。けれども逆に自分から積極的に近づいていけば、自然と巧くなるものなのです。学生時代には苦手なものでも自分から遠ざけず、どんどん自らの選択肢を広げていってください。最初は小さなきっかけでも、将来大きな判断をせまられたときに(就職や事業展開、結婚など)、海外の選択肢は生きてくるはずです。

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10年ほど前に祖父からもらったSEIKOのゼンマイ式腕時計。学生には少し派手かな、と思い使っていなかったが、神奈川大学で働き始めるのをきっかけに使うようになった