工学部 経営工学科
片桐 英樹 教授
Katagiri Hideki

研究分野 オペレーションズ・リサーチ、システム最適化、データ分析

生年/1971年
血液型/B
家族構成/妻、息子
子供の頃の夢/プロ棋士
趣味/読書
休日の過ごし方/仕事,息子と遊ぶこと
好きな食べ物/和食
好きな国/日本

工学部 経営工学科 片桐 英樹 教授

「最適化」を求める手法のなかには
人生のヒントも隠されている。

オペレーションズ・リサーチとは「問題解決学」

私の専門分野である「オペレーションズ・リサーチ」とは、社会に存在しているさまざまな問題を解決する方法を、科学的な根拠に基づいて示していく学問。いわば「問題解決学」です。最近、新聞や雑誌などでよく目にする「ビジネス・アナリティクス」という用語とも密接な関係があります。

担当している授業「オペレーションズ・リサーチT」では、お金や人材、原材料などの限られた資源をどのように配分すれば、最小のコストで最大の利益を得ることができるか、という企業活動の効率を最も良くするための行動・活動を決める方法について学びます。近年、企業活動では単に儲けるだけではなく、それによる環境負荷を最小化することも重要視されます。例えば、「物を作らない」のが一番よい方法ですが、それでは経済活動ができず、人間は生きていけません。このようにいくつかの目的を同時に考慮した場合、何かを良くしようと思えば一方で何かが悪くなります。そこでうまくバランスを取って持続可能(英語でいえばsustainable:サスティナブル)な企業活動を実現することが求められます。

人材に関しても、報酬を少なく労働時間を長くすればコストは下げられますが、それでは人が集まりません。適度な労働時間、さらに最適生産量やサービスの質の最適レベルなども考慮してバランスを取っていくことが重要です。そして数理計画や最適化といった手法を使って、こうした問題を解決していくのが「オペレーションズ・リサーチ」なのです。

研究は「問題探し」からスタート

とはいえ実際に現実社会にある問題は、「この数式を解いてみてください」というように明確に提示されているものではなく、最初の段階では「現在こういった生産状況で、効率が悪いのでどうにかしたいんです」というように、漠然とした「言葉」の状態です。その言葉から本質的な部分をとらえて、現実の問題を数式に落としこむ=「モデル化」が、「オペレーションズ・リサーチ」における問題解決の第一歩です。モデル化ができたら、それをさまざまな計算手法=「アルゴリズム」を使って、解いていきます。しかし、現実のところ、スーパー・コンピュータを使っても一生かかっても解けない、そんな問題ばかりです。既存の数理モデルやアルゴリズムではうまくいかない場合は、自分で考えることになります。

たとえば以前、ある中小企業と共同で行ったプリント基板の検査の効率化に関する研究では、「組合せ最適化」の手法を使いました。基板には検査のための2つポイント(ここでは赤と緑とします)があり、「赤をカメラで撮像」→「緑に電気を流す」を順に行う検査方法がとられています。工場には最大で200個の基板で構成される1シートを1日数千枚単位で検査する機械が30台ほど入っていて、さらにそれが24時間フル稼働していました。ですから検査時間がたった数秒速くなるだけで、年間にすると億単位のコスト削減になるわけです。我々はその検査の経路に着目して、最も短くなる順番を計算で導き出し、実際の売上増に大きく貢献することができました。カメラを複数台搭載した新しい検査装置も提案し、さらなる検査効率の向上に成功しました。

実はこの問題に関して、最初は、1枚のシートを複数の機械で検査してはどうか、つまり機械を増やしてはどうかと提案したのです。しかし、機械自体が高価なので、それでは意味が無いと言われました。そこで、安価なカメラを増やすことを提案し、それに合わせてモデルとアルゴリズムを考案して、最終的にこの解決法にたどり着きました。

世の中には未解決の「問題」がたくさんあります。社会や現場のニーズ、解決できたときのインパクト、自分の興味と能力、などを踏まえて、いかに“解く価値のある問題を見つけ出すか”が重要になります。現場を知って、そこから解く価値のある問題を見つけ、既存の解決法では解けない場合は、少しでも新しい理論を作っていく。このように研究を現場に適応させていくこと。さらにその先にまた新しい問題を見つけていくことが自分の役割ではないかと考えています。

変化するためには大きなエネルギーが必要

最適化問題に使われるアルゴリズムに「焼きなまし法」というものがあります。もともとは、金属材料を熱し、その後、ゆっくり冷ますという金属の精錬方法の「焼きなまし」から来た名称です。焼きなまし法では、現在の状態から、一見すると改悪とも思える不安定な状態に移ることを許します。ただし、この不安定な状態への移動は、温度が高いほど許容し、温度が下がるにしたがって徐々に認めないようにします。普通に考えると、いつも安定志向で移動したほうが良い結果が得られると思うかもしれません。ところが、多くの場合において、常に安定志向で移動を繰り返すよりも、不安定な状態への移動も認めるほうが“最終的には安定した状態に到達”できるのです。

これは人生にも当てはまるのではないでしょうか。若いうちは今の状態を飛び越えて、変化するための大きなエネルギーを持っています。何度も繰り返して、安定した自分にたどり着くのです。若い時にしかできない失敗もあります。アルバイトを通して社会のルールを知ったり、他大学の学生と交流をしていろいろな価値観に触れて自分の見識を深めたり、今を大切に生きてほしい。若い時は一瞬で過ぎてしまうと、取り戻すことができない貴重な時間です。エネルギーを使って、学生時代にしかできないことを経験してほしいと思います。

最適化というのはさまざまなモノの状態を安定させることでもあります。人生を最適化するのは難しいことですが、最適化を求める手法のなかに、そのヒントがあるのではないでしょうか。私はそんなふうに思っているのです。

John R.Birge教授の著書『Introduction to Stochastic Programming』(Springer)
客員研究員として滞在したシカゴ大学のJohn R.Birge教授の著書『Introduction to Stochastic Programming』(Springer)。先生からのメッセージ入り

ウォークマン
国際会議など英語を使う機会が多いため、勉強のために買ったウォークマン。日々修行中です