工学部 電気電子情報工学科
辻 順平 助教
Tsuji Junpei

研究分野 マルチエージェントシミュレーション、モバイルコンピューティング

生年/1985年
出身地/静岡県
血液型/O型
子供の頃の夢/とくになかったと思います(この質問に答えるのが苦手な子供でした)
愛読書/『現代数学』(月刊誌)
趣味/数学
休日の過ごし方/数学の本を読んだり、仲間たちと勉強会を開いたりしています
好きな映画/「ベイマックス」「インターステラー」「イミテーション・ゲーム」

工学部 電気電子情報工学科 辻 順平 助教

現実社会のなかで眠っているビッグデータを活かせば、
この世界をよりよいものにできるはず。

組み立て実習でコンピュータの「中」を知る

「電気電子情報実験 I・II」は電気電子情報工学科の基礎となる技術を習得する実習です。そのなかで私はコンピュータの組み立てを行う実習を担当しています。本学科の学生は、専門が電気の人も電子の人も情報の人も、基本的にはコンピュータを使います。また、講義でCPUやハードディスク、メモリなどのコンピュータの基本的な構成を学習します。一方で、実際にその中身をのぞいたことがある人はそれほど多くありません。そこで組み立てを通して、コンピュータの「中」を具体的に理解してもらうことを目的としています。

マザーボードにCPUを差し込み、CPUを冷やすためのファンをつける。これがうまくついていないとCPUが熱くなり過ぎてコンピュータが止まってしまいます。これだけでもCPUが熱に弱いことが実体験としてわかります。また、マザーボード上のCPUを取り付ける箇所には細いピンが剣山のようにびっしりついていて、CPUを取り付ける際に力を入れ過ぎるとピンが折れてしまって使い物にならなくなります。

このように実際に組み立てることで、デリケートな箇所はどこなのか。反対に、「ここは先生が適当に触っているから意外と丈夫なんだな」といったことが体験的に理解できます。授業の様子を見ているとなかなか大変そうで、果たして面白がってもらえているかは分かりませんが、私としては学生時代にこういう実習があればよかったなと思うこともあり、実践しています。

現実世界のデータを仮想空間でシミュレート

私は大学時代に、電波強度を使って人の位置を高精度に計測する技術を研究していました。簡単にいえば「無線LANの電波を使って室内での位置情報がわかるGPSのようなもの」です。GPSというのは、端末が衛星からの電波を受信して、飛んでくるまでにかかった時間で衛星までの距離を測り、そこから逆算して端末の位置を特定するという仕組みです。ところが地下街などへ入ると衛星からの電波が遮られてしまうため、途端に使えなくなってしまいます。そこでGPS電波のかわりに無線LANの電波の強弱を使って、屋内での位置情報を計測しようという試みで、現在、かなりいい精度で位置がわかるようになってきました。

さらに最近は、現実世界で行動する人々の情報をリアルタイムで追い続けることで、適切なタイミングで情報を提供したり、人が活動しやすい環境づくりにつなげたりする。そのような未来に向けた基礎技術を開発しています。

本学に着任する以前、私は国立研究開発法人 産業技術総合研究所の人工知能研究センターというところで特別研究員をしていたのですが、そこでは人の動きを再現するシミュレータを作っていました。例えばターミナル駅や花火大会といった大勢の人が集まる場所で、人の流れを観測してデータを集め、そのデータを使ってコンピュータ上で現場の状況を再現しつつ、どこが原因となって混雑してしまったのかを分析するのです。

人は生活の大半を屋内で過ごしていますが、そこでどのように行動しているのかはあまり分かっておらず、ブラックボックスです。例えば病院内で目まぐるしく動きまわっているお医者さんと看護師さんたちの位置情報データを集め、コンピュータでそれを解析して動線が分かってくれば、もっと効率的な配置をすることで、無駄な移動が減らせるかもしれません。このように現実のデータとコンピュータ上の仮想空間でのシミュレーションをうまく一体化させることで、現実世界をよりよく変えていきたいのです。

人工知能はデータを冷静に分析し、人間がそれをもとに判断する

近年、巷にはビッグデータという言葉が溢れていますが、それはあくまでインターネット上の話です。現実の世界には、もっとたくさんの(そしてまったく活用されていない)ビッグデータが眠っているはずです。「とりあえずネット上にデータがあるから解析してみよう」という方向ではなく、見込みがありそうな場所へ直接データを取りに行ったほうが面白いことができるのではないか。そう私は思っています。

そこで人間には不可能な、大量なビッグデータの解析を担ってくれるのが、人工知能です。計算パワーはもちろんですが、人工知能のいいところはデータがなにを言わんとしているのかということを、主観を入れず客観的に見いだしてくれること。人工知能が冷静に解析したデータを材料に、最終的に人間が判断を下すのです。このように人間と人工知能はどんどん協力していくべきです。人間にできない部分を人工知能に担ってもらうことで、我々はもっと豊かになれるだろうと思います。

少し前に、囲碁の世界チャンピオンが人工知能"AlphaGo"と対局して敗北しました。その時に解説者でさえも、この指し手がなんなのか分からない、と言っていたんですね。人間が見たこともない手を出してくる。この結果を受けて「人間が支配された」などと言う人もいるようですが、むしろこれは人間が考えもしなかった可能性が囲碁にはあった、ということではないでしょうか。人間には探索しきれなかった膨大な囲碁のパターンのなかから、こんな手もあると"AlphaGo"が見いだしてきた。そして、それを磨いていくのは人間です。この対局を見て、「それだったらこういう手もあるな」というように、人間側からまた新たなアイデアが出てくるかもしれません。私はきっと囲碁や将棋は、もっと発展していくのではないかと思います。このように、人工知能が見つけた原石を人間が磨く。こういう関係を築くのが理想ではないでしょうか。

「すぐ役立つこと」だけにとらわれないでほしい

私は趣味が「数学」なのですが、最近、個人的興味から学び始めた「整数論」の理解に、学部時代に学んだ「複素関数論」という講義が大きく役立つことを知りました。「整数論」を理解するために必要な「ゼータ関数」が、「複素関数論」で学んだことだと気づいたのです。「整数論」を勉強している人が「ゼータ関数」という言葉を聞いたとしても、そこから新たに「複素関数論」の勉強をしようとはなかなか思わないでしょう。けれど私はたまたまそれを学んでいたので、「なるほどあれか!」と理解できた。しかもそれだけで「整数論」自体にずいぶん親しみが増し、昔とった杵柄のパワーに驚いています。

このように、何にせよ全く新しいジャンルへ飛び込んだときに、その世界のものをほんの少しでも知っているかどうかで、抱く感覚は全く違うのです。それってすごく大事だな、と最近思うようになり、これこそが教養というものなのではないかな、と実感することができました。

ですから学生の皆さんには「すぐ役に立つこと」にとらわれないでほしいです。専門に限らず、科学や工学の教養を学ぶことは、自身の視野を広げ、人生に豊かさを与えてくれると思います。そういうことを頭の片隅にでも入れておいてほしい。そして好奇心をもって、さまざまなことを自ら学んでほしいです。

蝶の標本
モルフォチョウ、という主にアマゾンなどに生息している蝶の標本。青い翅は実は茶色なのだが、鱗粉に当たる光の反射と干渉で青く見える。それが面白くて飾っている

数学書
高木貞治著「代数的整数論」(岩波書店) は「類体論」について初めて言及された本。絶版なので古本で手に入れたもの。高瀬正仁訳・解説「ガウスの《数学日記》」(日本評論社)は数学者ガウスが19歳のときから書き始めた数学日記。理解したことや思いついたことがメモのように走り書きされていて、それがとにかく面白い