経済学部 経済学科
安室 知 教授
Yasumuro Satoru

研究分野 民俗学

出身地/東京都
生年/1959年
血液型/AB
家族構成/妻、息子2人
趣味/今は、とくになし(いろんなことをやりましたが、長続きしません)
子供の頃の夢/美術家(画家、版画家など)
尊敬する人/とくになし
愛読書/『真理先生』『馬鹿一』などは中学生のとき好きでした
休日の過ごし方/仕事、映画、読書、テレビ、インターネット、などなど
好きな映画/「フェイム」
好きな音楽/今はエミネム
好きなTV番組/とくになし
好きな著名人/とくになし
好きな食べ物/魚、酒
好きな国/とくになし

経済学部 経済学科 安室 知 教授

人々の暮らしを解き明かし、今後の暮らしにどう活かすか。
民俗学は未来につながる学問です。

道具がどう使われてきたか、心の問題にまで踏み込んで話を聞く

考古学と民俗学というのは、どちらもいわゆる「歴史学」の一分野です。考古学は土の中に埋もれていた遺物や遺跡を研究対象にして、そこから歴史を再構築するもの。それに対して民俗学は、人々の間で、特に口で伝えられてきた“伝承”をもとに歴史を再構築する学問です。さらに古文書など昔の文献をもとに歴史を明らかにする文献史学の三つをあわせて、広い意味での歴史学となるわけです。

考古学の研究対象となるのは土の中から発見されるような、基本的に形があって腐らないものです。また古文書というのも、その当時の、しかも字の書ける側の人が書き残したものでしかありません。それに対して人の口で伝えられてきたものは、形や記録には残っていない人々の生活の全てを含みますから、歴史学の対象としては最も範囲が広いといえるでしょう。このように民俗学というのは、人の暮らしすべてを対象にした非常に幅広い学問なのです。基本的に飽きっぽい性格の私ですが、民俗学だけは学生時代から30年近く続いているのは、そのせいかもしれません(笑)。

民俗学の研究において重要な位置を占めるのが聞き取り調査です。そこでポイントになるのは、例えばある道具がどのように使われていたかということを調べる時に、その使い方だけでなく、それを使っていたときの「心の問題」についても踏み込んで話を聞くこと。単純に昔の道具の使い方を調べるだけでは、モノを対象にした考古学と同じになってしまいますからね。そうではなく民俗学では、当時の人々の「暮らしの方向性」を見つけ出すことが大切なのです。

昔は、水田はとても豊かな場所だった

私は「環境民俗学」(この言葉を私は使いませんが)と呼ばれる、人と自然との関わりの中で形成される民俗文化について、特に田んぼの魚捕りやカモ捕りといった「遊び仕事」に注目して研究しています。実際に田んぼでドジョウ捕りをしていたおじいさんに聞き取り調査をする時には、漁具の使い方はもちろん、それをどういう時に、どういう気持ちで行っていたかということも聞くわけです。するとドジョウ捕りをしていたのは農繁期の田んぼの草取りで忙しい時期だったことが分かる。水田の草取りは真夏に行ううえに、ちょうど稲の葉が伸びる時期なので葉が目に当たったりして、とても辛い作業なんです。ですから田んぼでの魚捕りは、ある種、辛い労働のなかの一種の息抜きになっていた。いわば遊びの一面もあったということが明らかになっていくわけです。

昔の水田というのは、ただ稲を育てるだけの場ではなく、魚やタニシがたくさん取れたし、水口という水の流れ出るところに、かごを仕掛けておけば、その日食べる分くらいのドジョウは毎日捕れたんです。植物もセリだったり、稲が植えられない水口のあたりには湿気を好む里芋のようなものを育てたり。水田というのは非常にポテンシャルの高い空間だったんですね。それが高度成長期に農薬を大量に使い始めてから、魚も虫も住めない場所になり、水田が単に稲をつくるための工場になってしまった。

しかし最近では、農薬を使わなくなって魚が戻ってきた水田で子供たちに魚捕りの体験をさせようという動きもあります。一種の環境教育です。このように、かつての水田が持っていた潜在的な力を人がどのように利用してきたかを解き明かし、再評価することで、今後の水田の利用法にも変化が与えられるわけです。

過去を知り、それを未来に活かす

民俗学をやっていてよく言われるのが「昔の話を聞いてどうするの?」ということ。けれど本来、民俗学というのは、人々がこれまでどのようにして生きてきたのかを明らかにして、それを手がかりに、今後どう生きるべきかを考えるための学問です。その土地ならではの人々の生き方を大切にするという意味では、最近よく耳にする「スローライフ」「スローフード」といった言葉とも密接に関連しているといえます。実際にエコロジー活動をしている人たちのなかには、民俗学に目を向けている人も多いです。このように、実は民俗学というのは現在、さらに未来と直結しているものなんですよ。

15年ほど前まで鹿児島県南種子町で実際に使われていたカモ捕りの網
15年ほど前まで鹿児島県南種子町で実際に使われていたカモ捕りの網。網の部分を広げると2メートル以上になる。網で捕ったカモは散弾銃などと違って傷つかないので食べてもおいしい。こうした網は使う人がそれぞれ使いやすいように自作するので、長さや飾りなどがさまざま。そのため置いてあっても一目で誰の網か分かる

「ウケ」と呼ばれる魚とりの道具
「ウケ」と呼ばれる魚とりの道具。エビのように湖の下に沈めて使うものは両端が開いていたり、川の流れにさして使うものは片側がふさがっているなど、使う場所や捕る魚の種類によって形はさまざま